コラム

ホテリ・アアルト|建築家・職人・クライアントの連携から生まれたホテル

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骨格を残しながらの再生

福島県「磐梯朝日国立公園」の五色沼近くにその場所はある。120年前に大噴火した磐梯山の噴石が、水流を堰き止めて一帯に湖沼を生み、敷地内やその周辺にも湧水の静かに澄む小沼が点在する。
そこに東京の某デパートが40年前に自社の保養施設として建て、その後にA市に譲られて利用されてきた施設があった。本計画は、経年のうちにやや粗い改装で乱れを見せる既存の施設を、新たなリゾートホテルとして再生させるべく取り組まれたものである。

その施設は、各所の仕上げ材等に傷みや、数度の改装による構成的な乱れ、また現代的な居住性の上での不備は見られるものの、本体の骨格は今後にも十分に保ち生かせるものと診断された。また、当初に意図された建築としての全体のシルエットは、一帯の風景におおよそ適ってもいると思われた。
それらの状態を内外さまざまな角度から点検し、骨格も極力そのままに生かすことを基本的な方針として、レストラン等の一部の増築を伴いながら、新たな空間へ転換するデザイン上の読み解きを進めた。
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ひと時の安らぎの場へ

国道から一歩入る一帯の環境は、木々の群と見え隠れする湖沼の水平が独特な風景を織りなして静かである。また、上階からは南に磐梯山の頂を見、北に順光の吾妻連峰が見晴らせる。こうした特色ある風景や環境を滞在する人たちの経験にいかに新鮮に結ぶことができるか、それが改修全体を通しての課題になった。

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客室は、既存の骨格を読み解く中ですべてのプランが異なるものとなり、また最上階の客室は小屋組みに誘われて高い吹き抜けの空間となっている。
それらの多様な構成は、おそらくまったくの新規の計画の中では生まれ得なかっただろう。改修という地(既存)と図(構想)の交錯の中から発想された具体化されたものと言ってよい。
なお、全体の構成素材には地場の自然材を多く用いている。その意図は言うまでもなくこの地域固有の空間の質に関わることであると同時に、デザインを際立たせず自然な安らぎの空気をいかに生み出せるかということを目標に置いたことにもよっている。
本計画は、オーナーも密に関わるチーム設計の中で、共にひとつの場の形質を探り、新たな施設としての再生を見た。

益子義弘

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建築家・職人・クライアントの連携

本ホテルの事業主体であり、また工事施工を担った八光建設は、福島県郡山市に本社を置き、建築を主体として今年創業45周年(平成20年現在)を迎える総合建設業である。グループ企業であるラボット・プランナー、ホテリ・アアルトとの連携を図り、住宅関連のショールーム「ラボット」、レストラン「アーマ・テラス」、「裏磐梯のホテル(ホテリ・アアルト)」を運営しながら、新しい建設事業の創出に取り組んでいる。
2007年、仙台市に新たな拠点「ラボット仙台」を設けるにあたり、設計を益子義弘氏に依頼した。氏が設計された「金山の火葬場」(本誌9605)に感銘を受けたのがきっかけである。この「家」に身を置いた時の、自然体で過ごすことができる安らぎを、より多くの方に体験してほしいという思いを、ずっと抱いていた。
ある縁から、裏磐梯にある40年ほど前に建築された保養所を取得したのは2007年のことであった。これを改修してこれまでに例のないようなホテルとして再生したいと願った時、全体的な計画をお願いするのはこの方以外に考えられなかった。氏には、プロジェクトリーダーとして、設計スタッフ、クライアント、オペレーションスタッフがそれぞれに描くホテルへの思いを取りまとめいただいた。私が目指す、建築家、職人、クライアントが連携してつくり上げる建築を感じていただけると自負している。

宗像剛

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設計 建築 益子義弘 河合俊和 大竹慎太郎
   構造 サンミックス・システム堀井勝典研究所
施工 八光建設株式会社
設備 八島企画設計(電気)
   イズミ設計事務所(機械)
敷地面積 22.491㎡ 
建築面積 1,137.6㎡
延床面積 1,268.5㎡
階数 地下1階 地上2階
構造 木造 一部鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
工期 2008年10月~2009年3月

裏磐梯のホテル

所在地 福島県耶麻郡北塩原村大字檜原字大府平1073-153
主要用途 ホテル
建主 ラボットプランナー株式会社 宗像照男

設計・監理
建築 益子義弘 河合俊和 大竹慎太郎
   梅沢典雄(プロジェクトアドバイザー)
構造 サンミックス・システム堀井勝典研究所 担当/堀井勝典
設備 八島企画設計(電気) 担当/八島次雄
   イズミ設計事務所(機械) 担当/國分次男
監理 大竹慎太郎

施工
建築 八光建設
   担当/宗像剛 櫛田吉伸 橋本正博 岩淵絢一
   土木・造園担当/橋本晃一 海津正和
家具 ラボットプランナー 担当/高橋邦明
空調 トーカイ工業 担当/小松幸一
電気 エディソン 担当/星剛宏 小檜山盛幸

規模
敷地面積 22,491㎡
建築面積 1,137.6㎡
延床面積 1,268.5㎡
地階   345.1㎡(本館のみ)
1階 681.0㎡/2階 242.4㎡
建蔽率 5.06%(許容:20%)
容積率 5.64%(許容:40%)
階数 本館:地下1階 地上2階
   その他:地上1階

寸法
最高高 12,900mm
軒高  6,650mm
階高
本館
本館 地階:3,200mm 1階:3,200mm
レストラン棟:2,700mm
天井高 ロビー:2,600mm 客室(201~208):2,400mm 客室(301~304):2,400~4,500mm 浴室 2,250mm

外部仕上げ
屋根 フッ素鋼板t=0.4mm横葺き(既存)
外壁 スギ板w=150mm t=15mm 押さえ縁18×30mm キシラデコール塗布 エントランスポーチ軒天:押出成形セメント板t=15mm EP
開口部 アルミサッシ 一部木製サッシ ペアガラス オートドア
断熱材・防音壁 セルロースファイバー t=105mm(エコライフ)
外構 シバ張り エントランスポーチ:御影石t=80mm JB仕上げ
テラスデッキ:ヒノキw=105mm t=30mm キシラデコール塗装

内部仕上げ
エントランスポール・ラウンジ
床 炻器質タイル 100×200mm t=15mm(ダントー:GF-55)
壁 PB t=12.5mm EP 木製縦スクリーン:ピーラー材 90×60mm @105mm
天井 スギ不燃木材パネルシステム t=20mm(目地深さ5mm) 下地合板 t=9mm
特記 木部塗装:リンレイ白木ワックス(以下共通)
ラストラン
床 カラマツフローリング w=105mm t=15mm
壁 PB t=12.5mm EP
天井 PB t=12.5mm EP スギ小幅板 w=105mm t=15mm
暖炉 スチール鋼板 t=2.3mm 二重加工 耐熱塗装 基壇:敷地内天然石加工
照明 ペンダント・ブラケット:オリジナル(デザイン:益子義弘 製作:都行灯)

浴室
床 ヒノキ w=105mm t=15mm 十和田石 t=30mm
壁 漆喰塗り 十和田石 t=30mm 柱:ヒノキ150mm角
天井 スギ小幅板 w=105mm t=15mm
浴槽 内部:十和田石 t=30mm 露天:ヒノキ無垢材

本館客室
床 入口:サイザル麻カーペット t=6mm(シンコール) 客室部:キリ無垢板フローリング t=15mm乱尺張り(会津三島産) カラ松無垢板フローリング t=15mm 和室:本畳 t=60mm 目積 縁なし
幅木 タモ h=60mm(キリ床) カラマツ h=60mm
壁 客室:PB t=12.5mm EP 漆喰塗り 和室:PB t=9.5mm 不燃和紙クロス(東リ) 水屋・洗面:磁器質モザイクタイル50×10mm(ダントー)
天井 客室:PB9.5mm EP 漆喰塗り 和室:PB t=9.5mm 不燃和紙クロス(東リ)

共用部(廊下・階段・ホール)
床 サイザル麻カーペット t=6mm(東リ)
幅木 カラマツ t=60mm
壁 PB t=12.5mm EP 階段手摺り壁:ナラ練り付け 手摺:ピーラー材
天井 PB t=9.5mm EP
特記 階段ノンスリップ:フェローステップ(大洋金物:フラットタイプ)

離れ客室 和室
床 本畳 t=60mm 目積 縁なし 廊下:無垢フローリング(ピーラー材) w=105mm t=15mm
幅木 ピーラー材 h=60mm
壁 PB t=12.5mm EP 不燃和紙クロス(東リ)
天井 PB t=9.5mm EP 特殊不燃和紙クロス貼り(KOZO和紙)

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