前出のホテルに付属するロッジとして、近くにある35年の時を経た山荘を改修したものである。過去に名のある特別な保存や修復にかかわるような、そうした仕事ではない。壊して新たな造りで計画した方が設計はたやすかっただろうし、コスト的にもむしろ抑えられ、オリジナルなデザインになったとは思う。
改修に向かう一つの伏線は、ホテルで経験した既存の骨格を「地」としてそこに新たな空間の「図」を読み解く面白さと、そうした読み解きを通して結果的にデザイン上自己完結的でない効果や発見があること。また、持続更新が可能なものはできるだけ生かしていこうとするオーナーと共の思いからだった。
鋭三角形の小屋型シルエットは、当時よく目にした山荘のスタイルだ。木田の風景に対して癖がなく、完結で適っている。この骨格をそのままに、内部の設えをいったん裸にして、いくらかの補強を施しながら新たな居場所や室の構成に読み替えることにした
ロッジに期待されるのは、言うまでもなく内部の居心地の充足とともに、この周囲の自然と深く呼吸しあう場の設えだ。上の写真に見るスペースは、戸外の空気に浸って過ごせる場所を既存部に足した広めのデッキ部分である。ホテルでの経験で意外に多い滞在客からのクレームは虫に対するもので、時には蟻一匹の侵入に騒ぐ人もいると聞く。内心はこんな自然の環境にきて……と思わぬではないけれど、蚊や蛾の来週はやはり気持ちが落ち着けない。このデッキスペースは廻りを囲む格子内に目立たぬように防虫網を張り、引き網戸を添えて煩わされることなく静かに時を過ごせる場所とした。下を流れるせせらぎの音を聴き木々の香りに包まれるこの半戸外の空間が、ロッジで一番気持ち良い場になったかもしれない。
内部は少人数が適度に互いの間合いを持ちながら過ごせるよう、コンパクトに居場所をいくつか組んだ。これも改修という取り組みに伴う既存の骨格の中に多様な場を見出す発掘的な作業だったと言っていい。2階小屋裏のデッドスペースをベッドブースに利用したのもそんな一つで、片隅が意外な心地よさを生むことにあらためて気づく。広間の空間も思わぬ密度になった。
上階の水平窓からは木の間越しに磐梯の山容が望まれる。周囲の木立に対して適宜小窓を切り、このひと時の過ごしの場にさまざまな環境との対話が生まれることを願った。
益子義弘
敷地面積 356㎡
建築面積 59.01㎡
延床面積 98.57㎡(1階/59.01㎡ 2階/39.56㎡)
建蔽率 16.5%(20%)
容積率 27.6%(40%)
地域地区 磐梯朝日国立公園、第二種特別地域
外部仕上げ
屋根 ガルバリウム鋼板横葺き
壁 杉板押し縁、キシラデコール塗布
建具 アルミサッシ、一部木製サッシ
内部仕上げ
天井 各室/PB厚9.5AEP 浴室、サウナ/サワラ縁甲板、腰壁:サーモタイル
床 各室/キリ無垢フローリング 浴室、サウナ/サーモタイル300mm角
設備
冷暖房 温水パネルコンベクター ルームエアコン
給湯 灯油ボイラー
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